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シルセスキオキサンマテリアル

1.はじめに

 かご型シルセスキオキサン(POSS)とは右図のように一辺が0.3ナノメートルのシリカの立方体構造を中心に、各頂点に有機官能基を持つ化合物の総称である。剛直な立方体核から放射線状に側鎖が配置されており、普通の八官能性の化合物とは異なる性質を示す。特に、溶媒や他の媒質中において高い分散性を示すことから、分子レベルで無機成分と有機高分子をハイブリッドさせることが容易である。我々はPOSSの様々な特性を利用した新規材料の創成に取り組んでいる。

図1. POSSの構造.

2.蛍光色素の水溶性付与・高輝度化・退色保護を同時に行うホスト分子の開発(文献1)

 分光学的な手法による生体反応の可視化は、感度や利便性、得られる情報量から、研究から臨床診断において最も強力なツールの一つである。生体への付加を軽減することと透過光深度の問題から、色素は長波長励起長波長発光が求められている。しかし、一般にこれらの要件を満たすためには分子骨格の拡大が必要であり、そのために色素の水溶性が著しく低下する。また、励起のためのレーザーの照射による退色という問題点も存在する。我々は、これらの問題を克服するために、新規のデンドリマー型ホスト分子を開発した。このホスト分子は様々な脂溶性分子を効率よく取り込み、ゲスト分子の水溶性を向上することができた。さらに、内包化された蛍光色素の発光量子収率は上昇することと、光退色から保護されることも示された。これらの結果は、現在用いられている色素の性能を向上するだけでなく、上記の問題で生体での使用が困難であった色素についても、このホスト分子が生体適合性を向上することが可能であると期待される。

図2.POSS核デンドリマーに内包することで蛍光色素の光退色を阻害.

3.POSSネットワークポリマーによる水溶性ゲル(文献2)

 シロキサンポリマーは高い熱的安定性、有機溶剤に対する耐性、ガス透過性などを有しており、様々な用途に使用されている。さらに、剛直な立方体骨格を有するPOSSは、高分子鎖に導入することで有機高分子の熱的安定性を付与するのみならず、特徴的な構造に由来した様々な機能を発現する。本研究では、POSSを主鎖に含む三次元ネットワーク高分子を種々の条件下において作成し、それらの物性の違いについて調べた。既報に従い、オクタアミノ POSS の塩酸塩を合成した。続いて、メタノール中で無水こはく酸と反応させることで、オクタカルボキシ POSSを高収率で得た。これら二つの修飾POSSをモノマーとし重縮合反応を行うことでネットワーク状のポリマーを作成した。反応濃度を変化させることにより容易に架橋度を制御でき、さらに架橋度により耐熱性や屈折率、分子の取込み能といった物性が変化した。

図3.POSS含有水溶性ネットワークポリマー.

4.POSSフィラーによるプラスチックの熱的安定性と機械的特性の向上(文献3)

 有機無機ハイブリッド材料の開発において、フィラーを用いた材料特性の向上や機能の付与は簡便で有効な戦略である。我々は、ナノフィラーによるハイブリッド材料開発において、精密設計に従った正確な機能発現を目指している。POSSをプラスチックにフィラーとして添加することで、少量で熱的・機械的特性を向上させることが可能である。さらに、POSS のそれぞれの頂点に導入された置換基を変化させることで、材料の特性を様々に変えることが可能である。本研究では、置換基が異なる数種類のPOSS をフィラーとして添加することで、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の熱的・機械的特性がどのように変化するかについて検討を行った。その結果、側鎖に剛直性の高い置換基を有するPOSSはいずれの高分子において熱的安定性と剛性を向上させることが分かった。これはPOSSの剛直性が効率よく高分子鎖に伝えられたためであると考えられる。

図4.POSSフィラー添加による高分子材料の安定化.

5.POSS核導入による金属イオンの配位形式の変化(文献4)

銅イオンを含む水溶液にそれぞれ 16 個のカルボキシレート基末端を有する世代数1.5の POSS 核デンドリマーとPAMAM デンドリマーを添加し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。(図5)様々な濃度比の銅−デンドリマー混合水溶液を調製したところ、POSS核デンドリマーでは全ての溶液において 714 nm 付近にのみ極大吸収波長を示したのに対して、PAMAMデンドリマーの溶液では極大吸収波長が 600-750 nm の間で移動した。また長波長側での吸収強度を縦軸、銅・デンドリマーの総和濃度におけるデンドリマーの割合を横軸とした Job プロットを作成した。得られたデンドリマー錯体の組成比を銅イオン一分子に対するデンドリマー内部の窒素配位数に換算したところ、POSS核デンドリマーでは CuN2O2 型構造のみ、PAMAMデンドリマーの場合には CuN2O2 型や CuN4 型構造をとりうることがわかった。PAMAM デンドリマーではその柔軟な分子構造により錯体構造の変化が生じる一方で、POSS 核デンドリマーの場合には POSS 骨格によって誘起されたデンドリマー構造の剛直性や低い運動性により一つの配位形式のみを形成することが明らかとなった。

図5.デンドリマー核にPOSSを導入することによる配位形式の変化.

6.POSSイオン液体(文献5)

 イオン液体は、一般に融点が100 ℃以下である液体として定義されており、近年活発に研究が行われている。イオン液体の特徴としては、蒸気圧がほぼゼロであるため不揮発性であること、高いイオン伝導性を有していること、溶媒和能が高く多様な物質を溶解可能であること、などが挙げられる。これらの特徴を活かし、反応溶媒や電解質などへの応用が検討されている。また、イオン液体が注目されている理由の大きな要因として、カチオン種およびアニオン種の多様な組み合わせにより、物理化学的性質を調節できることが挙げられる。現在までに一価イオン同士の組み合わせは多数知られている一方で、1分子に複数の電荷を有するイオン液体に関する研究はあまり行われていない。これは、1分子に複数電荷が存在すると、融点が上昇する傾向にあるためである。また、アニオンの構造は、得られるイオン液体の物性に多大な影響を及ぼすことが知られている。 そこで今回我々は、POSSのオクタカルボン酸誘導体をアニオン種として用いることで、1分子に8つの負電荷を有するアニオンからなる化合物の物性評価を行った。(図6)カチオンとしては、イオン液体の中で一般的に研究されているイミダゾリウムカチオンを用いた。また、カチオンのアルキル鎖長による物性の変化を調べた。さらに、イミダゾリウムとPOSSの組成比を変化させることで、置換数の異なるデンドリマー型カルボン酸塩の合成を行い、その物性について解析を行った。その結果、POSSを導入することで、イオン液体の耐熱性が向上しつつ、融点は低下するという興味深い性質を見出した。結果として、我々が合成したPOSS塩は室温イオン液体であることが分かった。耐熱性向上についてはPOSSの剛直性に由来して、熱運動が抑制されたためと考えられる。融点の低下については、POSSが立方体構造を有していることから、イオン性置換基が隔離されているため、凝集構造を形成しにくくなったためと考えられる。

図6.POSSイオン液体.

7.参考文献

1. Tanaka et al. Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 3899

2. Tanaka et al. Macromolecules 2009, 42, 3489

3. Tanaka et al. J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2009, 47, 5690

4. Tanaka et al. Langmuir 2007, 23, 9057

5. Tanaka et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, in press.